近年大きな地震が多い日本ですが、そのたびに重い瓦は家の倒壊を招くということが言われます。
たしかに報道などでは、倒壊した瓦屋根の家や崩れ落ちた瓦の映像が繰り返し流されています。
では、実際、既存の木造住宅で、重いとされる瓦屋根から軽いスレートや金属に葺き替えれば家は大地震でも倒壊しなくなるのでしょうか。
この点について、耐震シミュレーションソフト「Wallstat(ウォールスタット)」を使用した検証がなされています。
「Wallstat(ウォールスタット)」とは
地震時の木造住宅の挙動を実際に振動台で実験、研究して作成された地震時の木造建築の損傷倒壊過程を高い精度で数値解析するプログラムであり、国土交通省 国土技術政策総合研究所の中川貴文氏によって開発されたものです。
以下、この検証の結果とそこから得られた家に必要な耐震補強について説明致します。
1. 耐震シミュレーションソフトによる検証
シミュレーションは、倒壊する可能性のある瓦屋根の2階建て住宅に対し阪神淡路大震災において神戸市中央区中山手で観測された震度6強に相当する地震波を加え、屋根を軽くした場合や耐震補強した場合でどのように倒壊状況が変化するかという形で行われています。
耐震シミュレーションソフト「Wallstat(ウォールスタット)」での検証
※耐震診断の評点について
1.5以上 - 倒壊しない
1.0以上 - 一応倒壊しない
1.0未満 - 倒壊する可能性がある
0.7未満 - 倒壊する可能性が高い
(評点は建築基準法令で要求される耐力に対する建物の耐力で示され、壁量をベースに接合部や基礎等の仕様や、その劣化の程度によって減点される仕組みになっています)
2. 結果からわかった!瓦屋根だから地震に弱いというのは間違い
シミュレーションの結果をまとめると下のようになります。
・耐震診断を伴わない屋根の軽量化では大地震で倒壊する可能性がある
・耐震性をあげるには屋根の軽量化よりも建物の壁量を増やす方が有効
・耐震診断の評点が1.0以上の瓦屋根住宅は巨大地震でも耐えられる
このように瓦屋根だから地震に弱いのではなく、軽い屋根であろうと瓦屋根であろうと建物が倒壊するかどうかはその建物自体の耐震性によるところが大きいということがわかります。
実際、2016年4月の熊本地震において、軽いスレートや金属屋根の家であっても倒壊しているものがあります。
また逆に瓦屋根の家ではあるが無事だったというものもあります。
これはまさしく検証の通りで、建物の耐震性が低ければ軽い屋根でも倒壊する場合があり、建物の耐震性が高ければ瓦屋根でも倒壊しないことを表しています。
3. 家を地震から守るために必要なのは、耐震診断に基づいて耐震補強の内容を決めるということ
では家を地震から守るには何をすればよいのでしょうか。
先程のシミュレーションの結果は「木造住宅の耐震補強の実務」(一般社団法人日本建築防災協会)における住宅の耐震補強の有効度にも合致しています。
これによれば耐震補強の有効度の高い順に、
1 壁の筋交いや補強用面材による壁の補強
2 基礎のひび割れの補修や無筋基礎の有筋化
3 土台や柱下が腐朽している場合の改善・劣化対策
4 壁や屋根の軽量化
とされています。
すなわち、家を地震から守るために必要なのは、耐震診断に基づいて耐震補強の内容を決めるということです。
耐震補強には少なからず費用が掛かります。
屋根を軽量化すれば耐震性が多少あがるのは確かですが、軽量化さえすれば地震から家を守れるというわけではありません。
限られた予算の中で大きな効果を得るために、何を優先すべきなのかを耐震診断に基づいてしっかりと見極めましょう。
4. 瓦屋根自体の耐震性について
ここまで、瓦屋根の住宅の耐震性について説明致しましたが、では瓦屋根自体の耐震性はどうなっているのでしょうか。
阪神淡路大震災を受けて多くの研究がなされ、2001年に「瓦屋根標準設計・施工ガイドライン」が策定されました。
ここに定められた工法は「ガイドライン工法」と呼ばれています。
ガイドライン工法は建築基準法で定められた耐風性能及び耐震性能の技術上の基準を試験等によって確認し、合格した工法です。
この工法で施工された瓦屋根は、耐震実験や実物大の家屋による振動実験で震度7クラスの大地震でも耐えられることが科学的に検証されています。
したがってこの「ガイドライン工法」で施工すれば、大地震でも瓦の脱落や棟が崩壊するなどの瓦屋根の損傷の心配はありません。
また、それだけでなく、建築基準法に規定された50年に一度の強風でも瓦が飛ばないようにもなっています。
地震だけでなく台風や突風にも強い工法なのです。
災害から屋根や建物を守りたいとお考えの方は、新築や大規模リフォームの際にはこのガイドライン工法で施工されているかを確認されるといいでしょう。
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